Amazon Bedrock AgentCoreにおけるプールモデルマルチテナンシー:共有インフラストラクチャと厳格なテナント分離
Amazon Bedrock AgentCoreとマルチテナンシーの課題
SaaSプロバイダーがマルチテナントAIアプリケーションを構築する際、セキュリティ、ガバナンス、応答精度といった一般的な懸念事項を超えて、新たなアーキテクチャ上の課題に直面します。これには、テナント分離、テナントID管理、データ分離、コスト配分、そしてノイジーネイバー問題の軽減などが含まれます。これらの課題を適切に解決しなければ、顧客データの漏洩、適切なサービス品質の提供不能、予期せぬコストの発生といったリスクに直面する可能性があります。 Amazon Bedrock AgentCoreは、このようなマルチテナント環境におけるエージェントアプリケーションの構築、デプロイ、および安全な運用を目的とした、マネージドかつサーバーレスなサービスとして2025年7月に発表されました。 本サービスは、ID管理、メモリ、オブザーバビリティ、評価といった機能を組み込みでサポートし、マルチテナントエージェントアーキテクチャを容易に構築できるよう設計されています。
プールモデルアーキテクチャによる共有と分離
Amazon Bedrock AgentCoreは、マルチテナンシーを実現するための複数のデプロイメントパターンを提供しており、その中でも「プールモデル」は、リソースの共有を通じてリソース利用率の最大化と運用効率の向上を可能にするアーキテクチャパターンです。 プールモデルでは、AgentCore Runtime、AgentCore Gateway、AgentCore Memory、データ層(ツール、ナレッジベース、データベース)、ID管理といった主要なアーキテクチャコンポーネントが複数のテナント間で共有されます。
この共有インフラストラクチャ内でテナント分離を維持するために、AgentCore Runtimeはセッション隔離されたマイクロVMベースのコンピューティングを利用します。これは、テナントごとにフル仮想マシンを起動するコストやレイテンシーなしに、セッションごとに軽量なマイクロVMを起動することで実現されます。各セッションは独自の永続ファイルシステムを持ち、エージェントはセッションスコープのファイルを読み書きし、中間計算アーティファクトを維持し、複数ステップのインタラクション間で状態を保持できるため、セッション間のデータ漏洩のリスクが軽減されます。
テナント分離とセキュリティの技術的詳細
プールモデルにおけるテナント分離は、多層的なセキュリティと詳細なアクセス制御によって実現されます。
- ID伝播とアクセス制御: Amazon Cognitoは認証を処理し、
tenant_idなどのカスタムクレームを含むJWTを発行します。 AgentCore RuntimeはこのJWTの整合性を検証し、テナントコンテキストをエージェントのランタイムセッションにバインドします。 その後のエージェント、ツール、サービス間のすべてのインタラクションには、このIDコンテキストが含まれます。 属性ベースのアクセスコントロール (ABAC) ポリシーは、JWTクレームを使用してデータアクセスに対するテナント分離を強制します。 - メモリの分離: AgentCore Memoryは、単一の共有
CfnMemoryリソースを使用しながらも、名前空間プレフィックス(例:/app/{appId}/actor/{actorId}/session/{sessionId}/)とIAM条件キー(bedrock-agentcore:namespace)を通じて強力な分離を強制します。 これにより、コスト効率を保ちつつ、各エージェントがその許可されたスコープ内でメモリの読み書きのみを行えるようにします。 - データ層の分離:
- 非構造化データ(ナレッジベース): 共有のベクトルデータベースを使用する場合、取り込み時にテナントIDをメタデータとして付加し、メタデータベースのテナントフィルタリングと名前空間ベースのアクセスコントロールによってテナント分離を実現します。 検索操作には、クロステナントデータ漏洩を防ぐための自動テナントフィルター挿入と結果サニタイゼーションが含まれます。
- 構造化データ(データベース): 共有データベーステーブル(例: Amazon DynamoDB)の場合、テナントIDをパーティションキーとして使用し、行レベルセキュリティ (RLS) を適用することで、データベース層で特定のレコードへのアクセスをユーザーまたはロールに基づいて制限します。
- ツールアクセスの管理: AgentCore Gatewayは、ツールのオーケストレーションを一元化し、APIやAWS Lambda関数をエージェント互換のツールに変換します。 ツールインターセプターはJWTクレームを検証し、要求するプリンシパルが特定の操作に対して適切な権限を持っていることを確認することで、アクセス制御を強化します。 さらに、リソースベースのポリシーを使用することで、AgentCore Runtimeおよびエンドポイントリソースへのアクセスを集中管理し、特定の条件(例: VPC内からのトラフィックのみ許可)でのアクセスを強制できます。
開発者・エンジニア視点での考察
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マイクロVMベースのセッション隔離を活用したステートフルエージェントの実装: Amazon Bedrock AgentCore RuntimeのマイクロVMベースのセッション隔離は、各エージェントセッションが独立したコンピューティング、メモリ、ファイルシステムを持つことを保証します。 これにより、開発者は複数ステップにわたる複雑な対話や中間状態の保持が必要なステートフルなAIエージェントを、クロスセッションデータ漏洩のリスクを最小限に抑えつつ、安心して構築できます。この基盤を活用し、エージェントの継続的な学習やパーソナライゼーション機能を安全に実装することが、顧客体験の向上に直結します。
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ABACとJWTによるきめ細やかなアクセス制御の設計: プールモデル環境において、共有されるリソース(メモリ、ナレッジベース、ツールなど)へのアクセスをテナント間で厳格に分離するためには、属性ベースのアクセスコントロール (ABAC) とJWT(JSON Web Token)を組み合わせた設計が不可欠です。 開発者は、Amazon Cognitoを介して発行されるJWTクレーム(
tenant_idなど)をAgentCore Runtimeで検証し、それをデータ層やツールアクセス層でポリシーとして適用することで、行レベルセキュリティやメタデータフィルタリングといったメカニズムを効果的に利用できます。これにより、セキュリティ要件の高いエンタープライズ向けSaaSアプリケーションでも、共有インフラストラクチャのコストメリットを享受しながら、データ分離を保証できます。 -
Silo、Pool、Hybridモデルの戦略的な選択と進化パスの考慮: Amazon Bedrock AgentCoreはSilo、Pool、Hybridといった複数のマルチテナンシーモデルを提供しており、テナントの要件(隔離レベル、コスト、運用オーバーヘッド)に応じて最適なモデルを選択する柔軟性があります。 開発者は、例えば、初期段階ではコスト効率の高いプールモデルを採用し、特定の高セキュリティ要件を持つテナントに対してはSiloモデルを適用するといったハイブリッド戦略を検討できます。また、エージェントやツールの成熟度に応じて、最初は特定のSilo内でプライベートに利用されていたツールを、AgentCore Gatewayを介して共有プールモデルに昇格させるなど、アーキテクチャの進化パスを念頭に置いた設計が重要となります。
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